天 塩 岳 1557.6m
1995.7.20

旧道登山口 8:00
新道分岐点 8:40
円山ピーク 9:40
避難小屋10:00
天塩岳山頂11:00
天塩岳山頂11:20
避難小屋11:40
円山ピーク11:50
新道分岐点12:50
旧道登山口13:20
 以前から、計画していたものの、札幌から日帰りとなると時間的にかなりきついため、なかなか実行に至らなかった念願の天塩岳への登山である。朝4時過ぎに札幌の自宅を出発し、愛別の道道101号線と国道分岐点到着が7時。 道道101号線は、舗装工事の最中で一部未舗装のダート道も残っているが、快適な走行が可能である。岩尾内湖方向に向かって右折すると本格的なダート道となる。ダートといってもよく整備されており、私のような「ダートマニア」にとっては、胸躍らせる快適な「高速道路」である。天塩岳ヒュッテまでの17キロはあっという間の「ドライブ」だったが、ダート嫌いの方にとっては、さぞかし長くて遠く感じる道のりであろう。車をドリフトさせながら新道コースの登山口を通過し、ほどなく天塩岳ヒュッテ前の駐車場への到着が7時45分であった。駐車場には既に三台ほどの車が駐車してあるが、もう出発してしまったのか、人影は見られない。

 今回の、登山を計画する段階で、旧道コースや、浮島峠横の「うきうきランド」横からの渚滑川コースも検討したが、札幌からの日帰りというハードスケジュールを考えて、旧道登山口から旧道・新道連絡路を経由する新道コースを選択することとした。 旧道登山口の天塩岳ヒュッテは、よく整備されており、ヒュッテ横のトイレもけっこう清潔に保たれている。ヒュッテは、宿泊用と言うよりは休憩所的な要素が強く、宿泊するのは雨の日か、寒くなってからの利用という感じである。駐車場脇には広いスペースもありキャンプも可能であるが、人里よりかなり遠く、夜は少々心細いこととなるであろう。

 ヒュッテ横で準備を整え、旧道登山口出発がちょうど8時。 登山口からすぐに沢に出て、砂防ダムの横を通り川に掛けられているオレンジ色の鉄の網が入った橋を渡り対岸に出る。ガマ沢沿いのよく整備された広い登山道を快適に進む。夏草が延びているが「藪こぎ」状態には全く至らない幅の広い登山道である。水の流れる川を眺めながら、アップダウンを繰り返し、旧道・新道連絡路近くまで来たとき、道の先から人の話し声が聞こえる。男女数人のグループが談笑しながら休憩を取っている。 軽い挨拶を交わし、旧道・新道連絡路分岐到着が、ガイドブックと同じ40分後の8時40分であった。

 今までの沢沿いの比較的楽なコースと分かれ、旧道・新道連絡路分岐からは急に登りがきつくなる。連絡路は、展望も利かず、左に谷を見ながら深い樹林帯へ黙々と分け入ってゆく感じである。道は整備されているが、比較的利用者が少ないと見えて、夏草が登山道に張り出している。草が朝露に濡れているためロングスパッツを付けているが、膝上までズボンが朝露でかなり濡れてしまい、気持ちが悪い。

 分岐から辛い登りを続け約40分で尾根に出て、新道との分岐点にたどり着く。分岐点は周囲がやや開けており、そこだけぽっかりと明るくなっている。ここからはずっと尾根歩きとなるが、前方の展望が利かず、単調なきつい登りが続く。登山道の周囲は、笹とダケカンバ等の樹林帯が゜拡がっている。笹は、結構密生しており、周囲の見通しは全く利かないので、笹か音を立てるたびに、一瞬クマの出現かとびくびくしながら20分ほど登りを続けると、小高い尾根にたどり着く。ここからようやく前方の展望が開け、遙か遠くに目指す天塩岳と前天塩岳が見えて、精神的にやや楽となる。

 分岐点からおよそ1時間で円山のピークに到着し、ここで一休み。円山は、本当にその名前のとおり、ボールをひっくり返したようななだらかな稜線である。ここまで来ると周囲はハイマツと笹になり、周囲が明るく感じる。ここまで約2時間の行程であるが、旧道・新道連絡路分岐で数人のグループに出会って以来「人」に出合っていない。いくら平日と言っても、夏山のオンシーズンにこれほど人が入っていないのも珍しいものである。おそらく、多くの人は旧道を利用しているのであろう。

 円山からは、ほとんど平坦なハイマツ帯をやや下りながら進む。左前方には、前天塩岳が徐々に近づいて来て、山頂付近の火事の跡と、遠くからでもはっきり確認できる登山道がまるでアルファベットの「Z」のように見えている。道の周辺は、この高度にしては、大変水が豊富で、所々に水たまりが出来ており1000メーターをゆうに越えた高山帯のにもかかわらず、「カエル」が道にたくさん飛びだしてくる。さすが、北海道の北の大河天塩川の源流だけはある。やがて遠くに見えていた三角屋根の避難小屋に到着。避難小屋はまだ新しく、整備もほどほどに行われているようだ。これなら少々狭いものの、快適な夜が過ごせそうである。小屋の隣にはやはり三角屋根のトイレもあり、綺麗に清掃が行われていて、好感が持てた。

 避難小屋からは、だんだん近くなる天塩岳山頂を望みながら、笹とハイマツの中を進んでゆく。遙か遠くまで登山道が一本の線のようにうねうねと続いているのが見渡せる。頂上直下に近づくと、傾斜がきつくなり、細かく割れた白っぽい岩が積み重なったような登山道へと変わる。ジグザクと折れ曲がっている歩きにくい登山道を進み、やがて待望の天塩岳頂上に到着。登山口から約3時間の行程であった。


 頂上には、アマチュア無線を楽しむために144MHz帯のアンテナを立てて交信中の男性と、初老の男性、中年の男性が休んでいる。しばらくぶりの人との「遭遇」にややほっとしながら、昼食を頬張る。頂上は、もやっており、遠くの展望は残念ながら利かないものの、なかなかの展望である。しばらくすると、旧道経由の4〜5人の男女混成の中年のグループが到着して、一気に頂上が賑やかになる。後ろでは、初老の老人がポケットから携帯電話を取り出して、帰るために天塩岳ヒュッテまでタクシーを呼んでいる。山頂から携帯電話で帰りの足の手配をしている場面に初めて遭遇し、「科学技術も進歩したものだ」と妙に感心してしまった。

 頂上で休んでいると、横に居た中年の男性が、下に見えている今登って来たばかりの新道コースの横100メートルを指さしながら、あそこに「クマ」が居る、と話しかけてきた。姿は直接見えないが、確かに風の方向とは明らかに逆の方向に向かって、笹とハイマツが大きく揺れている。これから帰る道のすぐそばであり、背中にやや寒いものを感じる。早々に帰り支度を整え、下山する。さっきの「クマ」らしき形跡が見えたところを通過するときは、思わず小走りになっていた。

 クマとはち合わせになりたくないために、帰り道を急いだためか、円山手前の山道で、両足の大腿四頭筋が痙攣を起こす。その場で少々休憩を取り、ひざまづいて、後ろに海老反りとなって筋肉を延ばし、ようやく回復。ヒュッテへの到着が13時20分であった。体力的には、日頃のトレーニング不足も祟ってかなりきつかったが、いろいろと思い出に残るであろういい山行となった。



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